ASAがついに中国でも提供開始!?Appleの中国内の動向を追ってみた

中国はIT企業として魅力のある市場です。10億人以上いるターゲットユーザーへリーチしながら市場を拡大できるといった理由があります。

ただし中国は政治状況が厳しい背景もあり、上手く参入できないIT企業も多いです。Appleも中国市場へ参加してユーザーを取り込んでいますが、全面的に成功しているとは言えません。

今回はアプリに関するトレンド情報として、中国におけるAppleの「Apple Search Ads(ASA)」市場について解説していきます。

1.ASAが中国市場でのサービス開始を発表!

Apple Search AdsはAppleが提供する、検索広告などを配信できるサービスです。App Store経由で広告配信を行うことで、iPhoneといったiOSユーザーへ幅広くリーチができる点に特徴があります。

アメリカや日本といった市場ではすでにシェアを伸ばしているApple Search Adsですが、最近までは中国での提供は行われていませんでした。たとえばSNS大手の「Facebook」が中国市場では提供禁止されているといったように、中国は国内における外資系企業のシェア拡大に関して保守的な姿勢を見せています。中国ではSNSとして「Weibo(微博)」が使われています。また検索エンジンに関しても世界的にはGoogleが代表的ですが、中国で使われているのは「Baidu(百度)」です。

しかしApple公式は2021年7月20日付で、Apple Search Adsを中国で使えるようになったと発表しています。提供に関してはいくつか制限があります。

検索タブは利用不可能

最近Apple Search Adsに追加された「Search Tab」への広告配信は、中国ではできません。このため配信手法はキーワードでのApp Store内ターゲティングへ限られてきます。

アプリ開発者はガイドラインをクリアする必要がある

Apple Search Adsで中国ユーザーに広告を配信したいアプリ開発者は、Appleが独自に策定した中国向けガイドラインへ従う必要があります。

中国ならではの規定が複数あるため、実質的に外資系企業が中国で直接広告を打つのは難しい状況です。そのためもし外資系企業が中国でApple Search Adsを使う場合は、政府認定の地元企業と連携して広告を出稿する必要があります。

結局各コストが発生することで、Apple Search Adsによる対費用効果を見込めなくなるリスクもあるでしょう。

2.抜け穴作りでとがめられたことも!?Appleと中国の関係性を解説

Appleと中国政府の関係性は、良好とは決して言えません。

事例としては、たとえば「ISBN番号(出版物などに付与される管理番号)」に関する対立が挙げられます。

中国は2016年に、モバイルアプリなどの流通に関して事前にISBN番号を申請・取得することを義務付けました。中国内のアプリストアは即座に番号を取得していないアプリを排除する動きへ出ましたが、Appleは違う動きを取っています。

具体的にはアプリの許諾証明を求めながらもポリシーを強制適用にしなかったりといった手法によって、実質ISBN番号を取得していないアプリの流通を黙認しました。この姿勢は中国メディアによって強い批判を受けたりと問題になっています。

この問題は2020年度になってようやく動きを見せましたApple公式はApp StoreにおけるISBN番号の取得を義務付ける方針へ変更しています。

ちなみに方針変更の発表と同時に、ウイルス感染シミュレーションアプリである「Plague Inc」の中国国内への提供が禁止となりました。Plague Incはコロナ禍発生直後に中国で人気を得てダウンロード数が伸びたアプリでしたが、「サイバースペース管理局」という中国の監視機関に違法だととがめられています。チュートリアルで中国が感染開始の国として指定されていたりと、中国のコロナ禍でのイメージを左右するような描写が含まれていたことも原因として考えられています。

ISBN取得の方針変更やPlague Incの提供禁止といった動きから分かるように、Appleは中国政府の圧力に従う方向へ動きつつあるのがポイントです。中国を市場としてターゲティングする場合は政府の意向をうかがうしかありません。しかし中国寄りの姿勢になりつつある現状を、投資家たちは不満に思っているようです。

3.ASAは今後中国市場でどう普及する!?中国外の企業は利用が厳しい

Apple Search Adsの中国市場への普及は、iPhoneの普及と強い関連性があります。Apple Search Adsで広告配信できるのはiPhoneを始めとしたiOSデバイスに限定されるからです。

iPhoneの最大の買い手は中国です。コロナ禍でシェア状況に変化は見られましたが、中国で幅を利かせていた「ファーウェイ(Huawei)」が勢いを落としたりといった影響もあって出荷台数は回復傾向にあります。ただファーウェイの失墜原因に政治的なしがらみがある点も含めて、この先iPhoneの販売が安泰というわけにはいかなそうです。

外資系企業への取り締まりが厳しくなれば、iPhoneの販売にも制限が掛けられるかもしれません。そうすればそれだけApple Search Adsの中国内での魅力が落ちてしまいます。ですからApple Search Adsシェア拡大は、中国政府の様子を見ながらのiPhoneのシェア拡大および維持に掛かっていると言ってもよいでしょう。

中国で対抗馬になるようなスマートフォン端末が販売されれば、Appleもそれだけ苦境に立たされます。コロナのような災害時も見据えて中国で安定したシェアを確保できる体制を維持できるかが注目されるでしょう。

4.まとめ

今回はApple Search Adsの提供開始を始めとした、Appleと中国の関係性に関するトレンド情報をご紹介してきました。

中国はiPhoneの最大の買い手である分、購入ユーザーへリーチできるApple Search Adsの魅力も大きいです。ただし現状では外資系企業が中国でApple Search Adsを利用するのは難しく、今後政治的状況によってはiPhoneシェアが落ちてApple Search Adsのパフォーマンスに悪影響を与える、といった状況が発生する可能性もあるでしょう。

Apple Search Adsを中国で使いたいと思っている場合は、中国内パートナーを見つけるといった細心の注意を行って広告出稿へ臨みましょう。