世界中で進む、Cookie規制
世界ではCookie規制が進んでいます。EUやAppleなどさまざまな団体や企業がユーザーのプライバシー保護のために脱Cookieの方向へ動いているのがポイントです。
Cookie規制の流れはGoogleにも影響しており、サードパーティー規制への動きを強めています。ただしCookieに代わる新しいターゲティング技術、「FLoC」を開発中です。FLoCが提供開始になれば、広告主へのダメージは抑えられる可能性があります。
今回は脱Cookieへの動きが気になる広告関係者へ向けて、Cookie規制の流れやFLoCの概要、そしてCookieとの違いや今後などを解説していきます。
1.Googleのサードパーティークッキー規制が本格化
CookieはユーザーがWebサイト閲覧に使っているWebブラウザーへ、文字情報として履歴を残す技術です。
Cookieには
・Webサイト運営企業が残し他企業が使えないファーストパーティークッキー
・Webサイト広告枠などが残し、他企業が横断的に使えるサードパーティークッキー
の2種類があり、今規制が本格化しているのは広告ターゲティングに利用されるサードパーティークッキーです。クッキー自体は正しく使えばプライバシー侵害にはなりませんが、他の情報と組み合わせたりすると情報漏洩につながる危険はあります。
すでにGoogle以外の団体や企業はCookieを規制し始めました。
・EUがCookieを規定通りに処理しないと罰金などを科すGDPRを制定
・AppleがITPを導入し、WebサイトをまたいだCookieトラッキングを規制
といった動きが代表的です。
そして日本でも大手企業のCookie悪用問題などを受け、将来的にCookie利用を制限する法律を制定する予定になっています。世界中でCookie規制に関する動きが強まっていることから、広告関係者は早急に現状を整理して対策を行っていかなければいけません。
そしてGoogleもCookie規制へと乗り出しました。Googleはビジネスモデルとして複数企業を広告主として抱え、サードパーティークッキーも活用しながら広告収入で稼ぐスタイルを長年取っています。
つまりサードパーティークッキーを規制されると収益に大きなダメージが出る危険性がありますが、ユーザーファーストの観点からもCookie規制に乗り出さざるを得ない状況でした。
ただし2020年1月にCookieの廃止を発表した際、2年間の猶予を設けると発表しました。他の団体や企業が早急にCookieを規制しようとした動きに比べると、Googleは企業が対応できる余裕を持てるように工夫していると言えます。
検索エンジンをはじめとしたサービス変更において企業側の対応を促す情報発表を行い猶予を設けるスタンスを取っているGoogleの姿勢は、Cookie規制においても貫かれました。
そしてただCookieを規制するのではなく、独自のターゲティング技術であるFLoCの開発も進行させています。
2.Cookieの代替技術FLoCとは?
FLoCとはCookieに代わる新しいターゲティング技術です。「Federated Learning of Cohorts」の略称になります。
FLoCには、Googleが提唱した「連合学習」というAIの機械学習方法の1種が活用されています。スマートフォンといった端末本体がAIを活用して機械学習を行い、改善点や変更点など必要な情報だけをサーバー側へ送信する仕組みです。
連合学習はパーソナルデータをサーバー側へ集約させる際の通信量の増大や処理負担、そしてプライバシー問題などを解決してくれる仕組みになっています。連合学習では必要な情報だけをサーバー側へ送信するので通信量や処理負担が減ります。またユーザーのパーソナルデータが端末の外から出ないためプライバシー保護にもなるのがメリットです。
FLoCにも連合学習のメリットが活かされています。FLoCについてはまず2021年3月のGoogle Chrome更新に合わせて、Googleが試験運用を開始します。そして4月から運用範囲を拡大させて、本格的に利用できる環境を構築する予定です。
3.FLoCの仕組みやCookieとの違いは?
Cookieは
1.Webサイトへユーザーがリクエストを行う
2.リクエストの際WebサイトがCookieデータをWebブラウザーへ送信
3.次回の訪問以降Cookieを基にパーソナライズされたサービスを提供
といった仕組みで成り立っています。つまりWebブラウザー単位で履歴が残っているので、その気になれば誰がどのWebブラウザーでどんな行動をしたか把握できてしまうのが問題です。特にサードパーティークッキーは広告主同士で共有できてしまうため、プライバシー侵害にもつながりやすくなっています。
対してFLoCでは
1.ユーザーがWebブラウザーを使用する
2.Webブラウザー内で機械学習を使って行動を分析
3.分析した内容を基にセグメントを行い、IDごとに振り分ける
4.IDに応じて広告ネットワークが広告を出し分ける
という仕組みを採用しています。Webブラウザー側に履歴を残さないのがポイントです。Webブラウザー内で行動分析を行った後に、数千人規模の「コホート」と呼ばれるグループにデータを分類していきます。IDはコホートごとに割り振られているので、ユーザーが特定されてしまう心配はありません。
Webブラウザー側に履歴を残さずグループデータの一部として行動を処理することで匿名性を確保しているのが特徴です。
GoogleはFLoCのパフォーマンステストを行い、結果としてはCookieを使った広告の約95%のパフォーマンスを獲得できました。100%以上になっていない時点で改善の余地はあるでしょうが、結果通りに運用ができるのであれば、Googleネットワークを使った広告主への影響は少なくなると思われます。
4.広告業界へどんな影響がある?
サードパーティークッキーの規制については、すでに各広告業者が対応を行っています。
AppleがCookieを規制し始めた時点で、各広告業者は大きな課題に直面しました。しかし大体のトラッキング技術を開発しながら仕様を変更して、上手く精度の高い広告を配信できるように柔軟に対応しています。すでにITPなどに対応している広告サービスを利用すれば、広告主の影響はCookie規制が今後強まっても最小限にとどまるでしょう。
ただしまだCookieに依存している広告サービスを利用している場合、今後より規制が強まることにより広告パフォーマンスが弱まる危険性があります。現時点でCookieの許可を訪問時にユーザーへ求める「オプトイン方式」を採用するWebサイトが増えており、ユーザーもCookieへの意識を強めているのでCookieが効果的に使いにくくなっています。
またCookie以外のターゲティング手法の中には問題を指摘されているものもあるのがネックです。広告主はプライバシー侵害をしないようなターゲティング手法を適用している業者を注意深く選ぶ必要があるでしょう。
またGoogleがFLoCを開発して広く提供する行為はよいことですが、競争原理的に問題を指摘されるケースもあります。Googleは長年広告や検索テクノロジーなどを提供して膨大な収益を獲得してきました。しかしあまりにも独占的な地位を築いたとして、欧州や米国などから現在厳しい目を向けられています。
今回もしCookie規制が強まった後FLoCの利用率が増加すれば、Googleが今までより独占的な地位を広告業界にて築いてしまうかもしれません。競争が妨げられないよう各国のGoogleに関する規制が厳しくなっていく可能性があります。その中で広告業界に影響が出る可能性は否定できません。
5.まとめ
今回は脱Cookieの動きやGoogleの代替技術FLoC、そしてCookie規制に関する今後の動きなどを解説してきました。
プライバシー侵害になる恐れのあるCookie規制に代わる代替ターゲティング手法が求められています。GoogleのFLoCはAIも活用した新しいターゲティング手法として受け入れられるでしょう。
広告主としてはFLoCやCookie規制についての最新動向を見ながら、プライバシー侵害を起こさない広告配信手法を確立していく必要があります。検索連動型広告と言ったCookieに頼らない手法も駆使しながらパフォーマンスを維持していきましょう。